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国際福祉医療大学大学院乃木坂スクール #03 常に最高の福祉用具専門相談員を目指すあなたのためのレベルアップ講座
11 月10 日、「福祉用具個別援助計画書」を作成し、実務に十二分に活かすための福祉用具専門相談員レベルアップ講座がスタートした。国際医療福祉大学と協力して開催される公開講座全10 回。この講座は、福祉用具による援助技術についての人材教育の第一人者を講師として招き、毎回異なる事例に対して、全国から集まった3人の専門相談員がそれぞれの提案を発表する事例検討会の方式で進行する。実際にその事例を担当した結果も発表されるため、机上の論理や理想論ではない「実務」を体験することができる。
第1回は、加島守氏(高齢者生活福祉研究所所長)を講師に迎えて開催された。
 
「以前の生活を取り戻したい」/障害者モデル 脳梗塞後遺症をリハビリと福祉用具で克服したい

第1回の事例は、脳梗塞で入院した59 歳の女性。退院後の自宅での生活を福祉用具の導入と住宅改修で援助してほしいとの依頼である。事前に発表者に渡った基本的なデータはおおむね次の通り。図面(改修前)

◆59歳の女性
夫、次男との三人暮らし(夫は介護のため休職中)
脳梗塞で入院。回復期病院を含め、約4か月半の入院期間を経て退院することになった。
後遺症として右上下肢麻痺。歩行時は装具を着用し、T字杖を使用する。若干の段差の乗り越えは可能だが、低位置からの立ち座りや跨ぎ動作に安定性を欠く。
障害高齢者日常生活自立度判定A2 /認知症高齢者日常生活自立度判定T

◆主訴
ケアマネ: 退院後、自宅での生活となるため、福祉用具と住宅改修で、転倒等のリスクと介護負担の軽減を図りたい。
本人: リハビリを続け、装具なしで生活したい。右手の動きをよくして、趣味の園芸を楽しみたい。転倒に気をつけたい。夫に迷惑をかけずに生活したい。
家族(夫): 一緒に家事をしたり散歩したりして回復を目指したい。屋内での安全性を確保してあげたい。食事を作れるようになってほしい。1人で過ごせる程度に回復できれば、自分は復職したい。

◆課題(ニーズ)
安全・安楽に起居動作を行い、転倒を防止したい。
快適に入浴したい。
自宅トイレで安全に自分のリズムで排泄をしたい。
園芸活動を楽しみたい

3名の発表者と、この事例の実際の担当者がたてたプラン、それぞれに対する加島氏のコメントをみてみよう。

 
生活の場面を想像。その先の未来の姿がみえるプラン

1人目の発表者は、(株)エイゼット所属、キャリア6 年目の森谷剛実氏。

(株)エイゼット 森谷剛実氏
「要介護度のわりに年齢がお若いなど、事前の情報だけでは身体状況等が想定しづらかったですが、可能な限り、与えられた情報で最適なプランを考えてみました」

森谷氏の提案(抜粋)
●ベッドの移動。もとの寝室から、リビングの一角へ。その理由は、ダイニングキッチンや浴室、トイレへの動線がシンプル、かつ短くなる(1人でキッチンへ行ける)ということ。さらに家族とのコミュニケーションがとりやすくなる。
● ベッド用手すり(可動式)は、同メーカーで鍵型のものもあるが、L 字型を選定。これは利用者が右片麻痺であることから、健側から起居する際に動線を邪魔しないようにとういう配慮から。
● 庭への出入りには、手すり(両側)付き段差解消踏み台を設置し、歩行器の導入を提案。リハビリにも積極的で年齢も若いため、園芸を楽しめるようになりたい、屋外に出たいという気持ちが強いのではないかと予想した。
● トイレには、バランスをくずしやすい中で、方向転換や衣類の脱着が安全に行えるよう、両側に手すりを設置した。
● 寝室から廊下の30mm の段差には、段差スロープを設置。

◆加島氏のコメント
トイレの手すりを両側に設置した点が良かった。
利用者の生活のシーンを想像した提案になっているので、提案とそれによって想定される結果がわかりやすい。
両側に手すりを設置 → 排泄動作が自立 → 留守番ができる → ご主人が出かけられる
積極的に外出する → ご主人と一緒に散歩(リハビリ)ができる。
加島 守(かしま・まもる)氏
高齢者生活福祉研究所所長。(福)新栄会滝野川病院にて医療ソーシャルワーカーとして勤務。理学療法士資格取得後、越谷市立病院に勤務、(財)武蔵野市福祉公社・武蔵野市立高齢者総合センターを経て現在に至る。
「この講座は、提案の良い・悪いを批評する場ではありません。大切なのはなぜそのプランをたてたのか。不十分な情報でプランをたてなければならないのは大変困難ですが、想像力を発揮し、こういう状態なので、こういう理由で、こういうプランをたてた、という発表のしかたをしてほしいですね」
 
いくつもの選択肢を提示。本人の意欲をひきだすプラン

2人目の発表者は、(株)ヤマシタコーポレーション所属、キャリア8年目の松田貴博氏。

(株)ヤマシタコーポレーション
松田貴博氏(右)
「選定した福祉用具等だけでなく、条件によってはいろいろなパターンも考えられます。それらの“可能性”をわかりやすく“留意点”の欄にまとめました」

松田氏の提案(抜粋)
● ベッドの位置はそのまま。障害高齢者の日常生活自立度をみると、現在はほぼベッドで寝ていると思われる。リハビリも頑張るということなので、なるべくリビングやキッチンへの移動を習慣化して離床を促すため。また、同居している次男の帰宅時間が遅いので、キッチンやリビング等から区切られていた方が安眠できるのではないかという理由から。
● 浴室には、浴槽縁の高さに合わせられる入浴用いすを提案。安全に浴槽へ出入りできるように、浴槽内いすと合わせて動作がスムーズになるよう動線を整えることで、安全性と介護負担の軽減を図る。

◆加島氏のコメント
ニーズと福祉用具の利用目標を対比させてあるので非常にわかりやすい(Aという目標に対してB という福祉用具の利用)。
留意点が非常に詳しく書かれており、その中で考えられる選択肢を提示しているので、本人や家族にとっての検討材料を示すことになるので大変よい。
浴室: 浴槽内での立ち座り時に、滑るなどの不安を感じるようであれば、滑り止めマットの提案ができる。
トイレ: 排泄後、拭く動作で身体の安定が保てないようであれば、ウォシュレット付補高便座が提案できる。また、夜間のみポータブルトイレを使用するという選択も。
移動時: T字杖と装具を使用しているが、4点杖という選択肢も。
 
動線をしっかり想定。生活のなかでの“動き”が想像できるプラン

3人目の発表者は、(株)カクイックス ウィング所属、キャリア7年目の江口誠氏。

(株)カクイックス ウィング
江口誠氏(右端)
「年齢とリハビリへの積極性から、ある程度の段差は杖歩行で可能なのではないかと考え、完全な床段差の解消等は今回提案しないこととしました」

江口氏の提案(抜粋)
● トイレの入り口を内開き戸からアコーディオンドアへ。片麻痺の人が片手で楽に開閉できるように。
● 玄関の外側の段差部分には、片麻痺であることから通路のセンターに手すりを設置(将来的にも車いすを使用しないという前提)。状況に応じて、通路両側に手すりがついたタイプにすることも考えられる。
● その他、T字杖をグリップバンド付きにすれば、手すりをつかむ動作を邪魔しない。

◆加島氏のコメント
トイレ入り口をアコーディオンタイプにした点が良かった。内開き戸を外開き戸にというところまでは通常発想できるが、片麻痺の場合、外開きだと動線によっては体勢に無理が生じることがある。
また、After の図面に、動線も記入してあるので、各所での動作時の身体の向きなどがわかりやすい。これならば本人もイメージしやすいのではないか。できればダイニングキッチンのどこに座るのか、席から各所へ移動する際の動線も記入してほしかった。「食事の支度ができるようになってほしい」という希望があるので、例えば、どこに座れば食器を流しに運びやすいかがわかるとアセスメントの材料にもなる。
 
本人のニーズが第一 利用者とともに“発展的変化”していくプラン

最後に発表したのは今回の事例提供者、(株)ヤマシタコーポレーション所属、キャリア8 年目の丸山知寿氏。

(株)ヤマシタコーポレーション
丸山知寿氏(左)
「居室から庭への移動では、リハビリによってできるようになった動作は、なるべく使っていただくようにしました。自分でできるという充実感を味わってもらうことが、さらなる意欲へつながるのではないでしょうか」

実際に採用された丸山氏の提案(抜粋)
● 特殊寝台付属品としては、若干固めでポリエステル素材のマットレスを選定。沈み込むタイプや蒸れる感じが不快だという本人の希望があったため。
● トイレにはウォシュレット付補高便座を導入。排泄後、後始末が自分でできるようにするため。また立ち座りが安定することから、自立支援および介護力の軽減につながる。
● 庭への出入りについては、当初、自立での移動にあまり積極的ではなかったが、自宅での生活に慣れるにしたがい、趣味の園芸を再開したいという希望がでてきた。そのため、初回モニタリング後に歩行器を提案。なるべく工事費用を抑えるという経済面への配慮もあり、庭石もそのままにし、手すりを設置するなどの工事はあえて行っていない。ただし、歩行器の保管場所は出入り口近くに確保した。
● その他、退院前後は本人がかなり不安がっているようだったので、コミュニケーションが円滑に図れるよう配慮。会話はゆっくりと、質問は簡単に答えられるようにし、意思表示の内容に遠慮やとまどいが影響しないよう心がけた。

◆加島氏のコメント
「不安そうである」「蒸れる感じのマットレスがいや」といった情報を自分なりに咀嚼し、提案に結びつけたところがよい。「○○といった状態なので、このような方法をとったらどうか」「△△に慣れてきたら、このような方法も考えられる」など、段階的な具体案をわかりやすく提示することができる。そこで福祉用具個別援助計画書が役立つ。

その後、会場の出席者から加島氏へ、また発表者、事例提案者へと質問が出て、活発な質疑応答が行われた。

加島氏は、こう締めくくった。
「ひとつの提案で本人や家族の生活が変わります。直接結びつく効果だけでなく、そこから派生するさまざまな可能性などを提案、説明していきましょう。その時または後日のモニタリングで役立つのが福祉用具個別援助計画書です。今回の事例ならば、歩行器の使用に慣れてきたら、庭での園芸だけでなく、ご主人との散歩の距離がのばせるのではないか、(見守りが必要であっても)買い物に行けるのではないか、などが考えられますね。そのために必要なことは、本人や家族の声を聞くこと、情報を収集すること。他職種との連携も大変有効です。」 

編集協力:(株)東京コア

 
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