
▲金沢 善智(かなざわ よしのり)氏
株式会社バリオン 介護環境研究所所長 理学療法士を離職後、東京理科大学・同大学院にて建築学を修め、医療と建築の知識・経験をもとに、要介護者の福祉住環境の整備に取り組む。弘前大学医学部助教授、目白大学保健医療学部教授を経て現職。医学博士・全国福祉用具専門相談員協会理事・福祉住環境コーディネーター協会理事
「まずは福祉住環境整備、ここが重要です。福祉用具と住宅改修で、その方に最大限、まずは自立していただく。住環境を変えることによって、その方の身体能力のレベルを嵩上げしてしまうんです。そして、それでもできないことは、マンパワーに頼りましょう、そういう順序で私は考えています」(同氏)。簡単なことのようだが、本当に実感できるかというと実は難しい。金沢氏は3つの事例を紹介してくれた。
まず40代の主婦Aさん。関節リウマチのため、朝なかなか起き上がれないのを家族に理解してもらえず、つらい思いをしていた。まだ介護保険ができる前のことで、病気や症状に対しても福祉用具に対しても、今よりもっと知識が足りなかった。ところが、背上げができる2モーターベッドをすすめ、使い始めたところ、目が覚めてから起き上がれるまで1時間かかっていたのが、20分に短縮できたという。また、ベッド搬入時の担当者が関節リウマチの症状について説明してくれたため、家族の理解も得られたとのことだ。
次はパーキンソン病のBさん。薬が効いているときは歩けるが、効いていないと寝たきりになってしまう。昇降機能がついていないベッドだったため、介護者である奥様がひどい腰痛に悩まされていた。そこで、背上げ機能に加えて、立ち上がりの介助・介護に必要な高さ調節ができる2モーターベッドを入れたところ、奥様の介助がとても楽になったそうだ。
また、認知症のCさんは、重度ではなかったが、風邪を引いたのをきっかけに自分で立ち上がれなくなってしまった。布団だと介護が大変なので特殊寝台を入れたが、高さがあるため、目が覚めた時に横に布団を敷いて寝ている奥さんが見えなくなってしまった。その不安からか「夜間せん妄」が現れ、認知症が進んでしまった。そこで一番低くなる電動ベッドに変えたところ、横を見たとき奥さんが見える。するとその夜から、夜間せん妄という興奮状態がぴたっとなくなった。
いずれも、ちょっとした症状に対しても、利用者と向き合い、何が原因で何が必要なのか、きっちりサービスできるプロフェッショナルであれば、様々なことが解決できるという例である。